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よしおくんのおばあちゃんからの手紙への渥美清の返事
「こんにちは。おばあちゃんからお手紙いただきました。僕は寅さんの映画に出ている、おじさんです。名前は渥美清といいます。よしお君は毎日元気でやってますか。
僕は、今、こうやって元気そうに見えますけども、生まれたときはね、1900ぐらいしかなかったんです。お父さんの片っぽの手のひらの上にちょこんと乗っかったくらいに、それは小さな赤ん坊でした。あまり体が丈夫でなくて、小学校も休む日の方が多くてね、全部を通して、4年ぐらいしか行っておりません。
いろんな病気をしました。ほとんど体操の時間は、一人ポツンと運動場に立って、みんなのことを見ている方が多かったです。それから大きくなって、25歳の時は、また病気をしました。これで死ぬか生きるかくらいの大きな手術をして、10日間ぐらいは、もう助からないんじゃないかなと言われるくらいに危篤でした。
今でもあまり無理ができません。僕のことをいつもいつも最後まで心配してくれていたおふくろも、もういません。生まれた時から、親子4人きりの家族でしたが、一番初めにお兄ちゃんが、そしてお父さん、お母さん、みんな死んで、僕一人だけになりました。
でも、体を大切にして一生懸命生きています。僕の体のことだけを家族の人は心配してくれました。だから、僕が自分の体を大切にするということは、僕の家族を大切にすることだと思っています。
よしお君も、つらいことや、じれったいことや、悲しいことがたくさんあるでしょう。でも、もっとつらい人がいっぱいいます。おじさんは何年間か遠いところの療養所に入っていました。そのとき、そういう人をいっぱい見ました。それはもうきりがありません。
おばあさんや、おうちの人の言うことをよく聞いてね、可愛がられるようにしてください。そして、楽しく元気に毎日を過ごしてください。
おじさんも、映画やテレビに出るとき、よしお君のこと思い出します。わざわざお手紙をくださったおばあちゃん、それから一生懸命働いてるお父さんに、よしお君からよろしくお伝えください。それでは、さよなら」
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これは、優しく温かな手紙ではないでしょうか。実は、渥美清の出演した映画は一度も観たことがありませんでした。ただ、YouTubeでは、第一作と第二作を観たのは、5年ほど前のことでした。主人公がテキ屋稼業だったので、教会に真面目に行き始めた頃でしたから、敷居が高くて行かずじまいだったからです。
日本人の善意や哀感が溢れていて、オッチョコチョイの車寅次郎の人とが出会い、とくに人気女優がマドンナとして登場し、有名男優が脇役で登場するのが、鍵の様な映画なのです。それに、日本各地を旅をするのと、昭和の時代の風景が映し出されていて、懐かしさに誘ってくれるのも味噌の様です。
渥美清は、アフリカ撮影で出掛けた先から、お母さんにアタて手紙が残っているのです。
『拝啓、おふくろさま。僕元気!』
この簡潔な便りを、中国の日本語を学ぶ中国の学生さんに紹介して、作文を書いてもらったことがありました。病弱な清少年を、支えてくれたお母さんへの感謝が、遠いアフリカに出かけている自分を心配しているだろうと思って、そんな感情が溢れていて、実に素晴らしい便りで、感動していた私は、少ない言葉で、想いを伝える術のあることを、学生さんたちに知って欲しかったのです。
そうすると渥美清は、名優と言うだけではなく、巧みな手紙の差出人でもあるのです。惜しまれて亡くなられた俳優さんでした。よしお君は、どんな想いで、この返事をおばあさんの朗読で聞いたのでしょうか。こんな手紙を書いてみたいものだと、今も思うのです。
(“いらすとや“のおばあちゃんとアフリカのキリンです)
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